2018年5月29日火曜日

キリンクラシックラガー - KIRIN CLASSIC LAGER -

キリンクラシックラガー(KIRIN CLASSIC LAGER)。

日本の高度経済成長期の働くお父さんに愛されたビール。
最近はすっかり生ビール(非加熱処理ビール)が主流になってしまいましたが、加熱処理で作られる数少ないビールです。

私は一般的に市販されているビールの中で、

「いちばん美味しいビールは何か」

と聞かれたらほかの銘柄を挙げるのですが、

「いちばん好きなビールは何か」

と質問されたら間違いなくこの「キリンクラシックラガー」と答えます。


多分にノスタルジーが入っていることは間違いありません。
特に瓶で飲んだあとの何とも言えない空瓶の香りが最高です。

キリンクラシックラガーはアルコール度数4.5%とほかのビールに比べて低めです。
アルコール度数はコクや甘みに影響を与えるので、いまではこのビールはほかのビールと比べて「薄い」という印象を受けます。
一方でホップを利かせた加熱処理が生み出す「苦さ」は健在で、印象としては「薄苦い」。

和食を中心とした日本の食卓にはこの絶妙な薄苦さがとても合います。
焼き魚やシンプルな野菜炒め、煮物と一緒に飲むと、料理の味と喧嘩することなく飲むことができます。
アルコール度数が低いためなのか、しっかりとした苦みがあるにも関わらずゴクゴク飲み続けても飽きが来ない稀有なビールです。
角瓶の水割りと並んで、「これぞ昭和の晩酌!」という感じですね。


キリンクラシックラガーは缶と瓶の両方が販売されていますが、圧倒的に昭和感を感じるのは瓶ビールです。年配の方が多く利用されるやや高級な和食系のお店において「キリン」を指定すると、瓶のキリンクラシックラガーが出てくることが多いです。


ちなみにこのキリンクラシックラガーに「クラシック」が入っているのには理由があります。もともと、キリンクラシックラガーはキリンラガービールだったのです。
熱処理をしない生ビールが主流になったこと、苦みを抑えて辛口仕上げのアサヒスーパードライ旋風が起こっていることに危機感を抱いたキリンビールが、同社の看板商品であったキリンラガービールを非加熱処理化し、やや軽くしてリニューアルしてしまいました。
従来のキリンラガーファンは苦くて重いといわれたラガービールが好きだったわけで、時代に迎合するとみなされた新キリンラガーはさらなる顧客離れが起きてしまうという事態を引き起こしました。

まぁ、そりゃそうですよね。
初めから軽めが良いならとっくにキレを売りにするほかのビール飲んでますもん。
商品設計からマーケティングまで計算づくのスーパードライに無理して対抗することもなかったのかなと思わずにはいられません。

で、キリンはキリンラガーの味付けを旧来に近づけるとともに、加熱処理製法時代のキリンラガーの味を「キリンクラシックラガー」として復活させました。
キリンラガービールのこの迷走は「キリン一番搾り」という名作があったが故かもしれません。

もっとも、キリン一番搾りも2017年のリニューアルで、プレミアムビールやらドライやらを意識した香り高めのややライトなビールになってしまったのが残念です。それまでは苦みはキリンラガーほどではない一方でどっしり感があり飲みごたえのあるビールで、敢えて(?)ホップの香りを立てないことでやっぱり和食に合うキリンらしいビールでした。「一番搾りクラシック」みたいに復活しないかなぁ。


キリンクラシックラガーもいまとなっては「重い」ビールではないかもしれません。
「苦い」ということがマイナス寄りに評価されることが多いいまとなっては、メンドクサイこだわりを持つオッサンくらいにしか評価されないかもしれません。
それでもいいんです。栓抜きの使い方を覚えたこどものころ、父親の晩酌に呼ばれて得意気に栓を抜き、空になった瓶を笛のように低い音を鳴らしながら片づけをした記憶という大切な想い出がこのビールにあるのだから。何十年も経ったいまでも、空瓶にかすかに残るキリンクラシックラガーの香りは懐かしく、時に淋しくもある記憶を呼び起こします。


米やコーンスターチなどの副原料が入っていることで「本物のビールではない」というのは野暮。ラーメンやカレーライスなどと同じ、日本人がオリジナルを参考に持ち前の気質で日本人向けの飲み物に昇華させたのです。
オリジナルの歴史や文化はもちろん尊重すべきですが、日本の地に根差したニッポンのビールも一つの完成形として同じくらい尊重されるべきだと思うのです。

キリンクラシックラガーはちょっと古臭い街の居酒屋から、和食を楽しむ料亭までとにかく日本を感じるお店に似合うビールです。
いまでは決してビールの主流ではないのも事実ですが、ふとしたときにお店で出てくると、とてもうれしい気分になります。
キリンクラシックラガー。これからも変わらない定番としてずっと残って欲しいと飲むたびに想いを馳せるのでした。


--------

4 件のコメント:

  1. こちらのブログも楽しく読ませていただきました。

    お酒に弱い身で何ですが,北海道民としてはやはりサッポロ推しです(笑)
    冬に魚介の鍋をつつきながら飲むサッポロクラシックは美味いなぁなんて。

    今から18年くらい前,1年間ほど高知県に住んでいたことがあり,その時にはキリンラガーをよく飲みました。
    当時は「高知はラガー」をさして不思議にも思いませんでしたが,改めて調べてみると激動のただ中にいたみたいですね。
    今週末にでも,カツオのたたきとクラシックラガーを買って晩酌したい気分です。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      初コメントです。嬉しいです。

      サッポロクラシックはさすがに美味しいですね。好きです。
      年に何度か札幌出張があるのですが、日帰りでないときは必ず一杯飲んで帰ります。
      樽生よりも瓶のほうがなんとなく風情を感じます。今年の冬は魚介鍋にサッポロクラシック、やってみたいです。やっぱり北海道の幸にはサッポロクラシックですかね。東京では有楽町駅前にある北海道どさんこプラザで缶のサッポロクラシックが売っていて、ときどき買っています。

      サッポロラガー(いわゆる赤星)も良いですね。最近瓶のサッポロラガーをよく飲食店で見かけるようになりました。メニューにこれがあるとテンションが上がります。
      赤星(サッポロラガー)だとかマルエフ(アサヒ生ビール)だとか、一昔前のビールが復活している印象です。プレミアムビール市場がある程度成熟してしまったので、次の作戦なんだろうなと思いつつも、やっぱり美味しい気がしてしまいます。

      こうして書いているうちに、早速今日の晩酌はどうしようかなという気がしてきました。せっかくなので今日は黒ラベルにしてみようと思います。

      削除
  2. こんにちは。

    キリンラガービールにそんな変遷があったとは知りませんでした。
    私はアルコールに弱く、こだわりなどはなく、ビールが苦く感じられないのは大人になったせいだと思っていたのですが、味自体が変っていたんですねw。

    私の父もキリンラガーの瓶一択でした。
    幼い私に少し飲ませては酔っぱらった私を嬉しそうに見ていた父や、私がコップ一杯のビールを飲みほしてしまって慌てる父など、懐かしい情景を思い出します。

    一番搾りは高校生の頃に出てきて、友人などと飲むときは決まってこれでした。
    近頃はあの頃のうまさが感じられないなぁと思っていましたが、こちらも違うものになっていたのですね。時代は変わるんですねw。

    近頃は晩酌をするようにしていますが、ビールだと腹が膨れるのでウィスキーをチビリチビリ舐めています。次はあれにしようかなと思っていた銘柄が発売中止になってしまったりで、次はどれにしようかと迷っています。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      昭和の時代はキリンビールはやっぱり強かったな、という感じですね。
      いまは近所の酒屋さんから配達でビールを買う、なんてことは無くなってしまったので缶ビール一択ではあるのですが、やっぱり外で瓶ビールを飲むと何杯もいけてしまうのは瓶には何とも言えない魅力があるからでしょうか。

      ウイスキーもいいですね。発売中止ということは響か白州あたりでしょうか。
      連ドラやらハイボールブームやらでエイジもののジャパニーズウイスキーはほぼ全滅ですね。オークションなどで山崎12年が25,000円とかって、以前の3~4倍と思うと手が出せません。もうこの先、自分が生きている間はずっとこんな感じなんでしょうか。国産好きの私としてはちょっと残念だなぁと。

      削除

アサヒスーパードライ - ASAHI SuperDRY -

アサヒスーパードライ。 日本で最も売れている缶ビール。 一般家庭に市販されているビールの中で圧倒的に売れているのがスーパードライ。 そう、「理屈じゃない」んです。 これまでの「ビールは苦いもの、重くて苦くてなんぼ」という概念を根底から覆す、すっきり辛口ビールとし...